上手く出来た話

~平成の最後に寿退社し、 令和の初日に結婚した私のお話~

兄と祖父の対面

 私には2つ上の兄がいる。優しくて頭が良くて誠実で人気者の自慢の兄だ。

そんな兄が、優しく、誠実であるがゆえに、長年一人で抱え込んでいた事実が明らかになった時の話である。

 私が高校2年生、兄が大学1年生の夏休み2人で親戚が住むウイーンに遊びに行った。1週間程行く当時としては長い旅だ。親戚も私たちの面倒見るの大変だっただろう。。。
 1週間も親戚の家にいると、親戚とも正直話すことがだんだんなくなってくる。そこで、その日は“幽霊って本当にいると思う?”という話で盛り上がった。良く高校生が宇宙や、宇宙人の存在について永遠に話続けられるのと同じような感覚で、兄と親戚と真面目に話していた。親戚からはヨーロッパの霊について何個か話してもらった。皆で「怖い、怖い」言っていると、兄が突然神妙な面持ちで話し始めた。


兄:「僕は、霊を見たことがある。」

カウ:「えーっ!いつ!?ずっと一緒にいたのに!」

兄:「小学校1年生のころだよ。」

カウ:「そんな昔?それこそずっと一緒にいる時期でしょ!」

兄:「うん。カウも隣で寝てた。」

カウ:「えっ、」

兄:「お爺ちゃまが亡くなった時、皆でお爺ちゃまの家の洋室で寝てたでしょ?」

カウ:「うん。お爺ちゃまの遺体は隣の部屋にいたね。」

兄:「うん。その日の夜、寝ていたら突然、僕だけ体が浮いたんだ。ビックリして声がでなくて。周りは皆寝てて。」

カウ:「ぇっ!」

兄:「うん。そうしたら、洋室にフランス人形の絵が飾ってあったでしょ?」

カウ:「うん」

鳥肌が立つ準備をしていた。

兄:「あの絵からフランス人形が浮き出てきて、僕の浮いている体の目の前まで来たんだ。」

カウ:「ぇっ!」

小声しか出ない。そして、完璧に鳥肌が立っている。

兄:「それで、そのフランス人形がカタカタカタッ!!て踊りだしたんだ!もう何が起こっているのかわからなくて、兎に角、必死で夢だと言い聞かせて無理やり寝たんだ。次気づいた時には何事もなく朝になっていた。」

カウ:「ぇっ?本当?」

兄:「あれは本当。それで、話すのが怖くて今までずっと誰にも言えなかったんだ。」

カウ:「それを、このタイミングで言うなら本当だね。めっちゃ怖かったでしょ?」

兄:「怖かった。でも何か不思議な感じだった。」

カウ:「へー。凄いねー。」


“小学校1年生から良く12年間も、そんな凄い経験を誰にも言わずにいれたなぁ。“と感心した。

 そして、ウィーンの旅も終わり帰国してしばらく経ったころ、ふと母にフランス人形の絵の話をした。

カウ:「あのお爺ちゃまの家の洋室にあったフランス人形の絵って何?」

母:「あー、あの絵は、お爺ちゃまがヨーロッパに出張に行ったときにお土産で買ってきてくれて、それをママが油絵で描いたのよ!」

カウ:「す、凄い!」

 

兄の話は、おそらく全て本当だ。

お爺ちゃまは、最後の最後に、初孫でとっても可愛がっていた兄の所に現れたのだ。それもお爺ちゃまが買ってきて母がそれをモデルに描いたフランス人形の絵から飛び出して。

なんて、粋な演出をしたんだろう。

確実にお爺ちゃまが兄に会いに来てくれたのだ。

凄いなぁ!!
ちょっと兄が羨ましい!!

お爺ちゃま、ありがとう。

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