上手く出来た話

~平成の最後に寿退社し、 令和の初日に結婚した私のお話~

バスの中の親子

 住んでいるマンションから最寄り駅までは歩いて20分かかる。普段は歩いて駅まで行くが、雨が降ったり、暑すぎたりすると流石にバスに乗る。
 昨日も梅雨真っただ中、バスに乗った。

 乗って1分も経たない時に、同じバス停でバスを待っていた親子連れの少年(多分小学校2年生くらいだろう)が、母親に、

少年:「トイレ行きたい~ぃ」

と言い出した。

母:「えっ?今バス乗ったばっかりじゃない!だからお家出る時にトイレ行っておきなさい!って言ったのよ。大丈夫?」

少年:「我慢する~ぅ」

語尾が上がり、泣きそうになりながらしゃべる少年とお母さんとの会話はバスの周囲の人には聞こえていて皆が皆微笑ましいやり取りだと思って聞いていた。
また、1分も経たないうちに

少年:「トイレ行きたい~ぃ」

母:「さっき大丈夫って言ったじゃない?大丈夫?」

少年:「さっきは大丈夫。今はダメ~ぇ」

母:「大丈夫?次で降りようか?」

少年:「やだぁ、降りないぃ。」

もう少年は揺れながら喋っている。

母:「大丈夫なのね?我慢できるのね?」

少年:「我慢するぅ」

母:「いい子ね。頑張るのよ。帰ったらゲームやっていいからね。」

他の事で気を紛らわせようとさせてあげているのだろう。

少年:「ゲームやらない~。宿題終わってないもん。」

“可愛い!いい子だなぁ~!”皆思っていた。

変わらずバスは駅へと向かっている。
しかし、雨の日の日曜日は普段よりも断然道が混んでおりバスが一向に進まない。

少年:「もう、だめぇ!我慢できない~ぃ」

母:「運転手さんにお願いして途中で降ろしてもらう?」

少年:「いやだぁ、我慢するぅ」

母:「我慢できる?大丈夫?あと10分くらいかしら。大丈夫?」

少年:「あと10分?我慢するぅ」

皆声に出さずとも少年に何とか頑張ってもらいたくて心の中で早くバスが進むことを祈る。
少年:「もうだめぇ。ちょっとでたぁ」

母:「えっ?出ちゃったの?」

周りの人も、ゴクリッ!とする。


少年:「うそぉ。」
母:「嘘は言わないの!!」

吹き出しそうになるのを必死にこらえる。

少年:「漏れそうぅ。地獄ぅ。」

“ジ、地獄!?”またしてもクスッ!としてしまう。

母:「次の信号が変わればもう駅の方に行けるからね!もうすぐだからね!」

少年:「もうすぐ天国ぅ。」

母:「そうよ!もうすぐ天国よ!」

少年:「でも今は地獄ぅ」

少年が可愛すぎる!皆心の中で少年を応援している!

そして、やっと駅に着いた。

誰もが少年を1番に降ろしてあげようと、通路を開けた。

そして、一人の男性が、
男性:「そこを右に曲がったところにあるトイレが一番近いです!」

と伝え、

母:「ありがとうございます!」

と言い、急いで教えてもらったトイレの方に走っていった。

少年は無事天国気分を味わえたであろう。

ハラハラしながらも、ほっこりしてしまう日曜日でした。