人生の儚さ~アリの一生~
19歳の頃というのは、海の日のような時期(夏休みの始まり!)で、常にワクワクしかない季節だ。大学2年生の私は高校から一緒のAちゃんと総武線にひたすら揺られ自宅まで帰っていた。
1時間ほどある電車の中では、私は寝ているか、真面目でお淑やかなAちゃんをからかっているかのどっちかだ。
その日の電車は空いていた。よく晴れており、たんぽぽの中にいるようだった。いつものごとく電車の中で、Aちゃんをずーっとからかい爆笑していた。
何しろ、全部が楽しい季節ですから。
カウ:「Aちゃん!見て!アリが歩いてる!!ウケるー!!」
Aちゃん:「わぁー、本当だね!どうやって電車に乗ったんだろうね?すごいねー」
Aちゃんは常に朗らかだ。
私たちはしばらくの間、一生懸命に動くアリを見入っていた。
カウ:「すごいなーアリさん!こんなに小さいのに電車に乗って~。すごいねーAちゃん。」
Aちゃん:「うん、すごいね!ずっと見てられるね~!」
ガラガラガラー。隣の車両から、一人の中年の男性が入ってきた。
足元はスニーカー。一歩一歩我々の視線の先に近づいてくる。
ん?このまま行くと、、、
うそでしょ!うそでしょ!まさかね!?まさかねー?
ふっ、踏んだーーーーッ!!
心の中では大声で二人とも叫び、実際口に出た言葉は、虫の吐息くらいの「あっ、」
一気に何パターンもの未来が頭の中でグルグル回った。
スニーカーだから、溝の間に入ってなんともないんじゃないか?
ペッチャっとなり、我々の目の前に置いて行かれるのか。。
ゴキブリがひっくり返った時のように手足をバタバタさせてるのか?
どうなの?どうなの?
今でも記憶はスローモーションだ。
男性の足が上がった。
ゴックン!
アリさんは、、、!
いなかった。
二人とも目の前で起こった現実を噛みしめ。
カウ:「Aちゃん。人生って儚いね。」
と言って、泣き笑いした。
19歳というワクワクしかない季節に人生の儚さを親友と学べたことは大きかった。
しかし、私の予想では、そのアリは、うまいことスニーカーの溝をつたい、男性の靴の上に乗り、その男性がそのあと成田空港からイタリアに行き、イタリアでもまた誰かの靴にくっついて、、、
今では、私より多くの国を旅しているのではないかと16年たった今でも思いを馳せているのである。